このホームページでもご案内した「尾張旭市教育フォーラム」が、今日の午後、文化会館ホールで行われました。第1部は、研究発表でした。尾張旭市教育論文に応募された中で、最優秀賞を得た東中学校のKY先生の「活用型学力育成を軸とした授業を繰り返すことで、『自分の考え』を構成の整った文章で表現することができる生徒を育てる~中学校第1学年国語科、紹介文・体験文・鑑賞分指導を通して~」と、優秀賞の旭丘小学校のHW先生の「図書館の本の探し方を身に付け、すすんで読書をする児童の育成~国語科『きみたちは、図書館たんていだん』の実践を通して~」の2本の論文が発表されました。
第2部は教育講演でした。NHKの番組「ドクターG」の出演でおなじみの大阪医科大学附属病院総合診療科教授 鈴木富雄先生による「心と体の健康とは~毎日を健やかに生きるために~」です。
「ドクターG」のGはGENERALのことで、総合診療科のことです。Dr.コト―は離島ですべての分野の医療を行いますね。どんなことでも患者の相談に気軽に乗ります。循環器、精神科、整形外科などが縦の専門家であるのに対し、それらを横断する横の専門家です。見方を変えると違う面が見えてくる、そういったフレキシビリティが大事なのです。患者のすべての問題に真正面から向き合い、バラバラの臓器ではなく、一人の人間として、心理的・社会的背景も含めて診るのです。総合診療の専門性とは、心臓、肺、消化器、整形外科etc.ではなく「あなたの専門家」なのです。学校の先生も同じですよね。教科の専門家なのではなく「子ども達の専門家」なのだと。
私は舞鶴市民病院で、医師として育ちました。そこではアメリカから来たスペシャリストから指導を受けました。その時感銘を受けたのは、患者の見方、診療の仕方はもちろんですが、教育への情熱でした。医師は数年で一人前になったように錯覚することがありますが、私はそうなりませんでした。ジェネラリストの鏡が身近にいたからです。
小金井の桜町ホスピスで驚いたことは、死について、患者と医師がフラットに会話できていることでした。身体やの痛みや心理的なケアを受けながらも、心の持ちようは健やかなのです。ある若い女性は、がんが全身に転移し完全麻痺になりましたが、ウエディングドレスを着て婚約者と模擬結婚式を挙げました。身体は健康か、と言われるとそうではありませんが、でも心は健やかで輝いていました。
舞鶴市の加佐地区は高齢化率35%で、70代が90代を介護するという状況でした。100歳で一人暮らしも珍しくありません。往診をすると自給自足で作った野菜をいっぱいもらえました。100歳を超える一人暮らしの人で、心臓発作を抑えるニトロを飲みながら草引きをするおばあさんがいました。入院を勧めても「畑の世話をする人がいなくなる」と、がんとして受け入れませんでした。医療の役割りは、疾病のない身体を創ることではなく、生活の中で生きがいを守ること、地に足がついた生活ができるようにすることです。
そんな状況の中では、人の死期はよく分かります。酸素吸入や輸液で生きながらえると、数日いや数か月も死期がずれてしまいます。近所の人が薬の面倒を見てくれる、みんなが助け合う。その中で身体はがたがただが、健やかに生きることはできるのです。名古屋大学にいたときは、病院で七夕とクリスマスに歌を歌いました。医師と患者の関係の中で、患者が医師に親しみを覚えることが大事なのです。
高齢化が進み、人口は逆ピラミッドです。その中で地域包括ケアシステムの構築が進んでいます。中学校区くらいで、社会保障と医療とを考えていくのです。100人いれば、心身に問題を持つ人は800人、医療機関に罹る人は200人、入院する日人は8人、大学病院に来るのは1人です。私たちが掌握しているのは、800分の1でしかないというのが現状です。
健やかに過ごすうえで大切なのはセルフマネジメント(いかに自分をコントロールするか)とコミュニケーション(他者との交流)です。また、肯定的な言葉が前向きな気持ちを生みます。言葉が姿勢や態度に結びつくのです。言葉は過去の経験、映像と結びつき、イメージを作ります。ためしに「よくがんばったなあ」と「ぜんぜんだめじゃないか」と言ってみてください。言葉は大脳に結びついているのです。
人は物を見る時、教育や経験によってつくられたフィルターを通してものを見ます。無色透明な事実が分からなくなっています。そこで大切なのがメタポジションから見ることです。自分の視点で見る第1ポジション、相手の目で見る第2ポジション、第三者の目で見る第3ポジション、そしてさらに上から全体の流れを見るのがメタポジションです。斜め上から自分たちの行動を見られるか、なのです。私たちは個々の箱に入っているようなものです。箱から出て、全体を見られるようにならなくてはなりません。
ラポール(人と人との間のなごやかな心の通い合った状態。親密な信頼関係にあること)を作ることが必要です。安全とは、よく分かりあっていることなのです。ラポールを築くためには、ペーシングとリーディングが必要です。また、人には承認欲求があります。承認こそが、究極の安心・安全に繋がります。他者承認だけでなく、自己承認が大切です。肯定的な質問が、人生の豊かさにつながってゆきます。
「ドクターG」はカンファレンスに4時間かけます。最初の頃、視聴者から「研修医は国家試験に受かっているのに、なぜ答えが違うのか」という声がありました。病院へ行って、診察や検査を受けたら、ポンと同じ答えがでてくるわけではありませんね。それ以来、研修医が病気を考えるパターンになっています。「ドクターG」は、朝の連続テレビ小説や大河ドラマとならぶNHKの三本柱の一つです(笑)
ユーモアを交えながらのお話に、1時間20分があっという間に過ぎてしまいました。医療の現場だけでなく、家庭や地域、そして学校教育の場でも生かせるお話がいっぱいでした。鈴木先生、ありがとうございました。
今日は300人以上の教職員に加え、保護者の方が200人以上、一般市民の方が100人以上の参加を頂きました。お忙しい中お運びいただき、感謝します。来年もきっといい講演が聞けると思います。(ちょっと早いですが)みなさん、ふるってご参加ください。
【謝辞を述べる現職研修委員長(東栄小学校長)】
文化会館の2階展示ロビーと展示室で、今年も恒例となった教職員作品展が開かれました。工芸や手芸、絵画や写真など、趣味や特技、専門性を生かしたたくさんの作品が展示されました。余暇の善用です。保護者の方や一般の方にも見ていただきました。