薔薇の内部
R.M.リルケ作
高安 國世 訳
どこにこのような内部を包む
外部があるだろう
どのような傷に
この柔かな亜麻布はのせるのだろう
咲き切った薔薇の花の
内海にはどこの空が
映っているのだろう、ごらん
薔薇はただそっと
花びらと花びらとを触れ合わし
今にもだれかのふるえる手に
崩されることなど知らぬかのよう
花はもうわれとわが身が
支え切れぬ。多くの花は
ゆたかさあまって
内から溢れ
限りない夏の日々の中へ流れ入る
次第次第にその日々が充ちた輪を閉じて
ついに夏全体が一つの部屋、夢の中の
部屋となるまで
リルケは19世紀末から20世紀初頭に活躍したオーストリア生まれの詩人です。「薔薇の内部」は1906年に上梓された「新詩集」に収められています。言語を通じて手探りで対象に迫ろうとする事物詩だそうです。
北門を入ったところに、いささか貧弱ですが薔薇の樹が植わっています。初夏になると、けなげにいくつかのピンクの花を咲かせてくれます。幾重にも重なった花びらには、いったい何が包まれ、隠されているのでしょう。